◆◇◆ 卒業論文 No.07 ◆◇◆             Back
■ 【 著 者 】:畑山 祐子 ( 教育学部生涯教育課程健康生活専攻 )
■ 【 題 目 】:体操競技における前後開脚ジャンプの開脚度と柔軟性の関係
【 論文の概要 】
 はじめに
体操競技における、前後開脚ジャンプの運動評価は、主にジャンプの高さと股関節の開脚度によってなされている。しかし、その評価のウエイトは、股関節の開脚度にあり、この運動のできばえは、柔軟性が深く関係していると考えられる。
柔軟性は、静止した状態での関節可動域の限界点を示す「静的柔軟性」と、動きの中で自らの力によって動かすことのできる関節可動域を示す「動的柔軟性」の二つに分けられる。実際にスポーツを行う場面おいて必要とされる柔軟性は、動的柔軟性であり、この動的柔軟性には、静的柔軟性を含め、敏捷性、平衡性、筋力等の要素が大きく関与していると言われている1)。そこで、本研究では、体操競技における「片足踏み切り前後開脚ジャンプ」の運動を対象に、股関節の開脚度の大小が、動的柔軟性のどの構成要素と深く関わりがあるのかを検討した。
 実験方法
1.被験者
被験者は弘前大学体操競技部に所属する女子学生7名とした。女子学生の年齢は、19.9±1.4歳、身長159.5±5.3p、体質量54.8±5.6kgであった。

2.測定項目と測定方法
(1):片足踏み切り前後開脚ジャンプ時の股関節最大角度の測定

被験者には、予め肩峰点、転子点、脛骨点を含む9箇所の身体計測点にマーキングをした。その後、1〜2歩の助走をつけた片足踏み切り前後開脚ジャンプをさせ、その開脚度が最大に達した時の股関節角度を測定した。前後開脚ジャンプ時の股関節最大角度は、ジャンプ時の上体軸の延長線を基本軸とし、それと前方下肢、後方下肢のそれぞれの転子点と脛骨点を結ぶ線とがなす角度を合計したものとした。
(2):静的柔軟性の測定
静的柔軟性は、股関節の屈曲角度・伸展角度によりあらわした。また、それらの測定は、能動的に行う場合と、受動的に行う場合とに分けて行った。慣性が働かないように被験者自らの力のみで股関節を屈曲・伸展させた角度を能動的柔軟性とし、他者から負荷をかけてもらい、被験者が限界を感じるまで股関節を屈曲・伸展させた角度を受動的柔軟性とした。(TKK柔軟度測定器を使用)
(3):敏捷性の測定
文部省スポーツテストの実施条件に従い、反復横跳によって行った。

(4):平衡性の測定
静的平衡性の測定は、閉眼片足立ちを(左右両足測定)、動的平衡性は、平均台後方移動テストを用いた。

(5):筋力の測定
被験者には直立姿勢をとらせ、下肢を伸展させた状態で股間節を素早く屈曲・伸展・外転させた時のそれぞれの最大筋力を測定した。実験では、固定した力量計と被験者の足首をロープで繋ぎ、そのロープを引くことで股関節の屈曲・伸展・外転力を計測している。測定は3回行い、それらの値を関節トルクに換算し、その平均値をもって評価値とした。
(6):下肢を振り上げた時の股関節最大角度(動的可動域)の測定
立位姿勢から、下肢を前方・後方・側方に可能な限り振り上げさせ、その時の股関節最大角度を計測した。振り上げた時の股関節最大角度は、転子点と脛骨点を結んだ線と鉛直線とのなす角度とした。
(7):下肢の挙上保持が可能である股関節最大角度(下肢の挙上保持能力)の測定
下肢を振り上げた後、最大で2秒間高い位置で保持できた時の股関節最大角度を計測した。計測方法は、下肢を保持する以外は、前述した6)と同様である。
なお、1)、6)、7)の運動の記録には、デジタルビデオカメラ(SONY MODEL DCR-TRV900)を用い、股関節角度のこのビデオ画像よりそれぞれの股関節角度を計測した。
 結果及び考察
(1):実験の測定項目とジャンプ時の股関節最大角度との相関関係を調べた結果、高い相関を示したものは、静的柔軟性(r=0.83~r=094)、下肢を振り上げた時の股関節最大角度(r=0.85~r=0.97)、下肢の挙上保持が可能である股関節最大角度(r=0.72~r=0.87)の3つであった。よって、前後開脚ジャンプ時の股関節開脚度は、静的柔軟性、動的可動域、下肢の挙上保持能力が強く影響しているものと考えられる。
(2):本研究では、片足踏み切り前後開脚ジャンプの開脚度の大小に対し、どの要素が影響を及ぼしているのかを明らかにするため、被験者を片足踏み切り前後開脚ジャンプ時の股関節最大角度が160度以上の者と、160度未満の者に分類し、前者をAグループ(4名)、後者をBグループ(3名)とした。そして、静的柔軟性、動的可動域、下肢挙上保持能力という3つの要素について、AグループとBグループの平均値の差の検定を行った。その結果、全てにおいてAグループの方が有意に大きかった(P<0.005〜P<0.25)。このことからも、前後開脚ジャンプ時の股関節開脚度は、静的柔軟性、動的可動域、下肢挙上保持能力が強く影響していることがわかった。
(3):
静的柔軟性に関しては、能動的柔軟性と受動的柔軟性の測定を行ったが、いづれもAグループの方が優れていた。ただグループ間の差は、受動的柔軟性の方が大きく、前後開脚ジャンプ時の開脚度を大きくする静的柔軟性の要素としては、能動的柔軟性よりも受動的柔軟性の方がより強く関与しているものと思われる。
(4):敏捷性、平衡性、及び筋力に関しては、前後開脚ジャンプ時の開脚度との相関関係はみられなかった。また、AグループとBグループとの平均値の差もみられなかった。このことから、敏捷性、平衡性、及び筋力の優劣は、前後開脚ジャンプ時の開脚度に影響を及ぼしていないと考えた。
(5):前述したように、片足踏み切り前後開脚ジャンプ時の開脚度に関係している要素は、A・B両グループにおいて、静的柔軟性と動的可動域、下肢挙上保持能力であった。よって、AグループとBグループにおける開脚度の差は、獲得していた静的柔軟性と、下肢を振り上げた時の股関節最大角度、及び下肢の挙上保持可能である股関節最大角度の差であったと考えられる。

以上の結果から、運動の場面において必要な柔軟性は動的柔軟性であり、静的柔軟性は実際の運動パフォーマンスに関係しないと言われていた。しかし、本実験の結果では、運動パフォーマンス(前後開脚ジャンプ時の開脚度)と、静的柔軟性は高い相関を示し、静的柔軟性はこの動作パフォーマンスに関係していたと言える。したがって、前後開脚ジャンプ時の股関節最大角度の増大には、静的柔軟性も含めて 、自らの力で下肢を動かすことのできる股関節可動域(動的可動域)を大きくすることが必要であり、またその可動域において下肢を目的の位置で保持できる能力も必要になると考えられる。

(参考文献)
1)日本生理人類学会 計測研究部会 「人間科学計測ハンドブック」1996 p.26