◆◇◆ 卒業論文 No.03 ◆◇◆             Back
■ 【 著 者 】:石戸谷 知倫 ( 教育学部・中学校教員養成課程・保健体育専攻 )
■ 【 題 目 】走運動におけるピッチとストライドの関係
【 論文の概要 】
 はじめに
走運動におけるピッチとストライドの関係は、多くの研究者によって論議されてきている。また、「ピッチ走法」、「ストライド走法」という言葉があるように、この2つの関係は走者自身の個別性が強く、一般概念として、疾走能力の向上がどちらのファクターに、より強く影響を受けるかを判断することは難しい。そこで、本研究では、児童・生徒の発育段階を追って、その疾走動作と疾走速度の経年的変化をみることで、この課題の解決を試みた。
 実験方法
(1)被験者 
被験者は、弘前市内のF幼稚園年長組(男子13名、女子15名)、F小学校3年生(男子18名、女子18名)、F小学校5年生(男子14名、女子22名)、F中学校1年生(男子18名、女子17名)の計135名(男子63名、女子72名)を対象とした。
(2)測定項目
  1)50m走の平均疾走速度(幼稚園については30mとした)
  2)50m走の平均ピッチ
  3)50m走の平均ストライド
  4)身体計測として、身長・体重・下肢長・大腿長・下腿長・大腿囲・下腿囲
1)については、デジタルビデオカメラ(SONY MODEL DCR-TRV900)を用いて被験者の疾走動作を撮影し、ビデオタイマー(MODEL VT6-33)を介して疾走タイムを計測し、距離とタイムから平均疾走速度を算出した。2)は、撮影された画像から読みとった疾走タイムと総歩数から1秒毎のピッチ数に換算し、平均ピッチとした。同様に3)の平均ストライドは疾走距離を総歩数で割って求めた。4)は児童・生徒の形態発育との関係をみるための資料とした。
 結果及び考察
(1) 加齢にともなう平均疾走速度の変化
疾走速度は男・女とも年次的に増加する傾向にあるが、女子の小学5年から中学1年までの期間において僅かな減少がみられた。また、男子においても疾走速度の上昇率は同期間が最も低かった。これを形態発育との関係でみると、男・女とも10歳〜11歳までは、形態の発育とともに疾走速度はほぼ直線的に向上し、それ以後の疾走能力の向上は、個人の運動経験やトレーニング等による身体諸機能の発達に影響を受けている可能性が伺われる。
(2)ピッチと疾走能力の関係
平均ピッチと平均疾走速度の関係は、男・女とも加齢に伴いピッチが減少する傾向にあり、全被験者を通じてみても、ピッチが上がれば疾走速度が向上するという明確な相関関係は得られなかった。ピッチの減少は男・女とも小学5年から中学1年までが顕著で、この時期の形態発育(長育)に、ピッチを維持するための筋力などの体力要素の発達が追いついていないためではないかと思われる。しかし、同学年で疾走速度の高い上位5名グループと低い下位5名グループの平均ピッチを比較すると、男・女とも疾走速度の高いグループはピッチが大きい傾向にあり、その差は0.2〜0.5回/秒程度であった。これは、疾走速度の高いグループが低いグループに比べ全体的に形態面の発育も優れており、ピッチを上げるために必要な筋力などの体力要素の差がピッチの大小に影響した結果ではないかと考える。従って、幼稚園年長組から中学校1年生までの経年的疾走能力の向上は、ピッチに依存するものではないが、同学年の被験者間に限れば、疾走能力の高いグループは低いグループに比べ、ピッチが大きい傾向にあることが指摘される。
(3)ストライドと疾走能力の関係
一方、平均ストライドと平均疾走速度は、男・女とも加齢に伴い増加し、高い正の相関(男子r=0.834,女子r=0.810)がみられた。また、ピッチと同様、同学年間で疾走速度の高い上位5名グループと低い下位5名グループの比較をしても、疾走速度の高いグループの平均ストライドは、低いグループより、男・女とも全ての学年において大きい値を示した。更に、ストライドにおいては身長比歩幅(身長の発育にともなうストライドの増大の影響を除外するため、ストライドを身長で割った値)と疾走速度との関係からも検討を加えたが、児童・生徒の経年的疾走能力の向上は、ストライドに強く依存していることが示された。
 岡野1)2)は、トップアスリートの疾走タイムとピッチ、ストライドの関係について、男子はそれぞれr=−0.100、−0.594、女子はr=−0.429、−0.567で、男子は主にストライド、女子はピッチとストライド両方のファクターで記録は決まるとしている。この報告は、本実験の身長比歩幅と疾走速度の関係を検討した結果と類似しており(男r=0.626、女r=0.406)、児童・生徒の疾走能力の向上もトップアスリートと同様、ストライドが大きく影響していることが示唆される。
 まとめ
以上の結果をまとめると、幼稚園から中学校1年生までの経年的な疾走能力の向上には、ピッチはほとんど影響せず、ストライドが増大することで、疾走速度が上がっていることがわかる。また、同学年の被験者間では、ピッチの大きい者が疾走速度も高いが、これは被験者の体力的要素が関係していると思われ、筋力やパワーなどの体力要素のトレーニングを抜きに、疾走能力の低い者に対して、ピッチを上げるように指示しても、その動きをコントロールすることは難しいと考える。よって、学校体育の指導場面では、ピッチを上げることよりストライドを伸ばすことに意識をおいて走るように指導することが、より効率的に疾走能力の向上につなげることができるのではないかと考える。 

(参考文献)
1)岡野進:「競技会における男子100mレースのタイム、ピッチ、ストライドの関係」,陸上競技紀要(日本陸上競技連盟)1,pp12−18,1998.
2)岡野進:「100mレース(競技会)における女子スプリンターのタイム、ピッチ、ストライド」,体育の科学38,pp242−247,1988