◆◇◆ 卒業論文 No.08 ◆◇◆             Back
■ 【 著 者 】:三上 久之 ( 教育学部生涯教育課程健康生活専攻 )
■ 【 題 目 】:短距離走におけるスピード持続能力についての一考察
【 論文の概要 】
 はじめに
短距離走における疾走パフォーマンスを決定づける要因の1つに、スピード持続能力があげられる。このスピード持続能力についてはこれまでも多くの研究がなされ、疾走速度の逓減要因として、下肢筋群の筋力や筋持久力の弱さ、疾走中の脚の流れ、ピッチの低下等が指摘されている。ただ、短距離走におけるスピード持続能力と200m走や400m走、その中間の距離である300m走の疾走能力との関係をみたものは少ない。 また、スピード持続能力は、無酸素性のエネルギー供給システムによるパワー発揮能力と関係が深いと考えられるが、これについて検討を加えた報告も少ない。
そこで、本研究では、以下の2点について検討した。
 1.スピード持続能力と200m・300m・400m走の疾走タイムとの関係
 2.スピード持続能力とハイパワーおよびミドルパワーとの関係
 研究方法
1.被験者
被験者はH大学陸上競技部に所属する男子学生6名(年齢20.7±1.63歳、身長174.8±3.94cm、体質量68.4±3.84kg)、女子学生4名(年齢20.5±0.58歳、身長161.3±1.97cm、体質量51±5.21kg)の計10名を対象とした。
2.100m・200m・300m・400m走の疾走タイムの計測
被験者全員に100m・200m・300m・400m走の全力疾走を行わせ、それらの全走運動をデジタルビデオカメラ(SONY MODEL DCR-TRV18)を用いて撮影した。疾走タイムは、この映像にビデオタイマー(VT6-33)を録画することにより読みとった。スタートはクラウチングスタートで行い、疾走レーンは第4レーンとした。なお、100m走では、10mごとの通過時間を知るために、第3レーンと第5レーンに10m間隔でハードルを設置し、ハードル間に紙テープを張り、被験者の通過時間の目安とした。
3.100m走における疾走速度の変化と最高疾走速度の算出方法
撮影した映像から読みとった10mごとの通過タイムをもとに、最小自乗近似による補間法を用いて、その時点(各10m地点)の疾走速度を求めた。また、最高疾走速度は、10mごとの疾走速度がもっとも高い値を示した地点の前後数点(3〜5点)のデータをもとに、速度変化の近似式F(x)を求めて算出した。
4.疾走速度逓減率の求め方
疾走速度逓減率は、最高疾走速度とゴール地点の速度との差を最高疾走速度で除した値とした。本研究では、この値をスピード持続能力の指標としている。
疾走速度逓減率={(最高疾走速度−ゴール地点の速度)/ 最高疾走速度}×100
5.ハイパワー、ミドルパワーの測定
ハイパワー、ミドルパワーの測定は、電磁ブレーキ式自転車エルゴメーター(コンビ社製パワーマックスV)を用いて、それぞれ2回行い、その平均値を各パワー値とした。ハイパワーは、自転車エルゴメーターに内蔵されている最大無酸素パワーテスト(10秒間の全力ペダリングを3回、各試行間に2分間のインターバル)を行い、体重あたりの最大パワー(Peak Power/BW)を求めた。また、ミドルパワーは、負荷を0.075Watt/kg重に設定して40秒間の全力ペダリングを1回行い、40秒間の平均パワーを算出し、体重あたりの平均パワー(Mean Power/BW)を求めた。
 結果及び考察
1.100m走の疾走速度の変化と疾走速度逓減率について
100m走における疾走速度は、10mまではほぼ同じであるが、20mになるとばらつきがみられた。そして、40m付近で最高疾走速度に達し、その後、徐々に疾走速度が減少する傾向はほぼ被験者全体にみられた。被験者の中で、50m付近で最高疾走速度に達した者が男女1名ずついたが、この2名は、他の被験者の疾走速度逓減率が4〜9%台であったのに対し、1〜2%台という小さい値を示し、ゴール地点では、男子学生群、女子学生群の中でもっとも高い疾走速度であった。また、被験者には、400m走または400mH走を専門としている学生が5名いたが、1名を除き疾走速度逓減率は6%以下であった。これは、他の被験者の疾走速度逓減率に比べ小さい値を示した。このことから、疾走距離が400mである種目を専門としている者は、他の種目を専門としている者よりもスピード持続能力に優れていることがわかる。
本研究の結果からは、疾走速度逓減率と100m走のタイムとの間には、有意な相関関係を導き出せなかった。これは、100m・100mH・110mHを専門としている被験者では、100m走のタイムがよく、疾走速度逓減率が大きい値を示し、400mまたは400mHを専門にしている被験者では、100m走のタイムがあまりよくなく、疾走速度逓減率が小さい値を示したためと考えられる。
2.疾走速度逓減率と200m・300m・400m走のタイムとの関係
疾走速度逓減率と200m走のタイムとの間には、有意な相関関係はみられなかった。しかし、300m走のタイムとの間には、男子学生(r=0.767,p<0.1)、女子学生(r=0.954,p<0.05)ともに有意な正の相関関係がみられた。また、400m走のタイムとの間には、女子学生にのみ有意な正の相関関係(r=0.902,p<0.1)がみられた。このことから、100m走におけるスピード持続能力に関係している疾走距離は、300m以上の距離であると考えられる。
3.疾走速度逓減率とハイパワー、ミドルパワーとの関係
疾走速度逓減率とハイパワーについてみてみると、男子学生、女子学生ともに有意な相関関係がみられなかった。また、ミドルパワーについてみてみても、男子学生、女子学生ともに有意な相関関係がみられなかった。疾走距離は異なるが、持田ら1)も、400m走における疾走速度の逓減が、ミドルパワーの影響を受けなかったことを報告している。したがって、疾走速度の逓減は、無酸素性のパワー発揮能力に影響を受けないものと考えられる。
4.最高疾走速度とハイパワー、ミドルパワーとの関係
最高疾走速度とハイパワーとの間には、有意な正の相関関係(r=0.765,p<0.02)がみられた。また、ミドルパワーとの間にも、有意な正の相関関係(r=0.908,p<0.001)がみられた。しかし、最高疾走速度と無酸素性のパワー発揮能力との関係をみた研究は皆無であり、本研究の結果を検討するため、深代ら2)による短距離種目の一流選手(男子)を対象とした無酸素性のパワー発揮能力を測定した結果をもとに、本研究の被験者(男子学生)と比較してみた。その結果、ハイパワー値では大きな差がみられたが、ミドルパワーの値はほぼ同じであった。一流選手が、本研究の被験者に比べ疾走能力に優れ、最高疾走速度も高いことを考えれば、その差はハイパワー値の差に起因すると思われる。したがって、本研究の結果から、最高疾走速度とハイパワーおよびミドルパワーとの間には、ともに有意な正の相関関係が認められたが、ミドルパワーよりもハイパワーのほうが、最高疾走速度により大きく影響を及ぼしているのではないかと推察される。

(参考文献) 
1)体育学研究48 P573-583 2)体育の科学 Vol.41 4月号 P262-268