◆◇◆ 卒業論文 No.06 ◆◇◆             Back
■ 【 著 者 】:板橋 宏季 ( 教育学部生涯教育課程健康生活専攻 )
■ 【 題 目 】:野球の打撃成績に及ぼすスポーツビジョンの影響
【 論文の概要 】
 はじめに
スポーツに必要な視機能を意味する「スポーツビジョン」の研究では、競技成績が優秀な選手はスポーツビジョン測定結果も優れている、ということが報告されている2)。また、視機能を高めて競技力の向上をはかろうとする「ビジュアルトレーニング」を試みる競技団体や選手も増えてきているという1)。これらのことは、野球においても同様であり、特に打撃時においてはスポーツビジョンの重要度が高い。つまり、打撃成績が優秀な選手はスポーツビジョン測定結果も優れているということである。
そこで、本研究では、「公式戦における打撃成績とスポーツビジョンとの関係」、及び、「野球の打撃成績に及ぼすビジュアルトレーニングの効果」という2つの研究課題について検討を加えた。
 研究方法
1.公式戦における打撃成績とスポーツビジョンとの関係
被験者は、弘前大学硬式野球部員11名とし、2003年度北東北大学野球2部リーグの秋期リーグ戦における公式スコアから、打率、四球率、及び三振率を抽出した。また、スポーツビジョントレーニングソフト「SPEEJION」(株式会社 アシックス)を用いて、被験者11名のスポーツビジョンを測定し、打撃成績とスポーツビジョンとの関係を調査した。
<調査・測定項目>
(1)公式戦における打率、四球率、及び三振率
(2)スポーツビジョン(動体視力、眼球運動、周辺視野、瞬間視、及びそれらの合計値)

2.野球の打撃成績に及ぼすビジュアルトレーニングの効果

被験者は、弘前大学硬式野球部員10名(前述した「公式戦における打撃成績とスポーツビジョンとの関係」における被験者11名の中の7名を含む)とした。そして、スポーツビジョン測定は、前述した「公式戦における打撃成績とスポーツビジョンとの関係」におけるスポーツビジョン測定と同様に行った。打撃成績については、打撃実験(1回目)を行い、打率とバント成功率を算出した。その成績に加え、スポーツビジョン測定結果、及び身体特性をもとに、被験者をトレーニング群とコントロール群に分け、トレーニング群にのみ「SPEEJION」を用いてビジュアルトレーニングを行わせた後、被験者全員を対象に、再び打撃実験(2回目)を行った。つまり、打撃実験を、トレーニング群のビジュアルトレーニング前とビジュアルトレーニング後の計2回行い、その結果を比較した。
<測定項目>
(1)スポーツビジョン(動体視力、眼球運動、周辺視野、瞬間視、及び、それらの合計値
(2)打撃実験1回目における打撃成績(打率、及び、バンド成功率
(3)ビジュアルトレーニングに伴うトレーニング群のスポーツビジョン測定結果の変化
(4)打撃実験2回目における打撃成績(打率、及び、バンド成功率)
 結果及び考察
1.公式戦における打撃成績とスポーツビジョンとの関係
本研究からは、スポーツビジョンが打撃成績に影響を及ぼしているという結果は得られなかった。この結果は、公式戦における打席では、打順や試合の流れ、さらに相手投手による球速や球種などの違いにより、打者1人1人の条件が大きく異なることが原因であると考える。
2.野球の打撃成績に及ぼすビジュアルトレーニングの効果
(1):
本研究における、打撃実験1回目の打撃成績とスポーツビジョン測定結果との関係からは、スポーツビジョンが打撃成績に影響を及ぼしているという結果は得られなかった。この結果は、野球歴や筋力などの個人差により、「視覚を介して周囲から情報を得る能力」と、「その情報から動作の指令を出し、プレーにつなげる能力」との関係に差があることが原因だと考える。
(2):トレーニング群とコントロール群にグループ分けをした後、トレーニング群を対象に、5回にわたるビジュアルトレーニングを行わせた結果、トレーニング群のスポーツビジョン測定結果(動体視力、眼球運動、周辺視野、瞬間視、及びそれらの合計値)が、いずれも統計的に有意に向上した(P<0.05〜P<0.005)。
(3):打撃実験2回目を行った結果、バント成功率は、打撃実験1回目のバント成功率と比較して、両群ともに変化がなかった。この結果は、バントではスイングをせずにバットを固定して行うため、ある一定の技術にまで達すると、スポーツビジョンをはじめ、筋力や体力、練習量などの影響が少ないことが原因だと考える。
(4):打撃実験2回目を行った結果、トレーニング群の打率は、打撃実験1回目における打率と比較して、統計的に有意に上がった(P<0.025)。この結果は、トレーニング群にのみ行わせたビジュアルトレーニングの効果によるものであると考える。また、コントロール群の打率は、打撃実験1回目における打率と比較して、統計的に有意に下がった(P<0.05)。この結果は、打撃実験2回目を行った時期の練習量が、打撃実験1回目を行った時期の練習量よりも減少したことによって、スイングスピードやバットコントロールに影響が出たことが原因だと考える。
 まとめ
以上の結果から、公式戦や打撃実験における打撃成績と、スポーツビジョン測定結果との関係には、個人差は見られるものの、グループの平均として考えると、ビジュアルトレーニングを行うことによって打率が向上することは確かである。しかし、石垣1)によると、ビジュアルトレーニングでは、スポーツビジョンを高めるとともに、それをプレーに結びつけるためのスキルトレーニング、つまりスポーツ練習をする必要があるという。本研究においても、トレーニング群を対象にスキルトレーニングを行わせることで、打撃実験2回目では、より一層、打率が向上したかも知れない。
したがって、日常の練習の中でビジュアルトレーニングを取り入れる、つまり、スポーツビジョンを鍛えるとともに、視機能によって得た情報をプレーに結びつけるためのスキルトレーニングを行うことにより、打率の向上が十分に期待できると考える。

(参考文献)
1)石垣尚夫ほか:「スポーツビジョン[第2版]―スポーツのための視覚学」 pp.89-114 2002年
2)真下一策:「競技種目別スポーツビジョン」臨床スポーツ医学12 pp.1105-1112 1995年